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所轄の刑事課時代に担当した広域窃盗事件だ。県内外の飲食店など約200軒から現金計数千万円が盗まれた。「自分のことしか考えない根っからの悪人の仕業だろう」と思った。 車の目撃情報から容疑者として浮上した男2人組の行動を監視した。逮捕に踏み切るという日、2人組のうち1人を逮捕する任務を課された。 その日、男はパチンコ店で1人スロットを打っていた。坊主頭に無精ひげ。鬼のような形相をしている。想像した通りの風貌(ふうぼう)だ。慎重に近づいて取り押さえた。 取調室で、男と向き合った。大きな事件の取り調べは初めてだった。相手との信頼関係を築かなければ、良い取り調べはできない。「飯は食えてるか」「よく眠れるか」。そんな気軽な会話から始めた。当初、容疑を否認していた男は、翌日には認め、身の上を語り始めた。 男は当時20歳代。中学、高校時代はスポーツ選手として活躍した。「高校時代の友人が暴走族になり、少しずつ悪の道に入っていった。本当はプロになりたかった。こんな生活じゃいけないと思いながらやっていた。早く捕まりたかった」。そう言って、男は泣いた。 余罪が多く、取り調べは半年くらいかかった記憶がある。その後、男は裁判で実刑判決を受け服役した。 何度か刑務所から手紙をもらい、出所したとき、わざわざ勤務する警察署まで訪ねてきた。「おお、久しぶり」。声をかけると、作業服を着た男はうれしそうに「知り合いの紹介で土木の仕事をしてるんです」と言った。パチンコ店で見た男と同一人物とは思えない自信に満ちた表情をしていた。「今度、飲みに行こうな」と誘い、男との付き合いを続けている。 多くの犯罪とかかわり、「どんな犯罪者にも、心のどこかに良心のかけらが残っているのではないか」と感じるようになった。 男は周りに流されやすい性格で、母親が病気でお金が必要だったという事情もあった。犯罪に手を染める原因には、育った環境が影響しているケースもある。 犯罪を減らすためには、国レベルで社会の環境を良くしていくことが必要だ。だが、政界にはいまも、政治と金の問題がはびこっている。道徳心のない政治家の存在にいらだちを覚え、国政への挑戦を決めた。県民全体に訴えようと、富士山を演台に見立て、5合目から第一声を上げた。 ( 2010年7月1日 読売新聞)
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